【実践事例4】「現場が頼りすぎていた」“属人化”からの脱却

― 広島県の訪問看護ステーションが仕組み化で生産性と働きやすさを両立
◆ はじめに
広島県内で地域密着型の訪問看護サービスを展開するA訪問看護ステーション様。
30名規模の看護・リハビリ職員が日々利用者様宅を訪問し、質の高いケアを提供してきました。
しかし、日々の業務が属人化し過ぎていたことが、引き継ぎミスや判断の遅れ、業務の偏りといった課題として顕在化。
さらに、請求業務(レセプト)の遅延が常態化し、キャッシュフローにも影響を与えていました。
F6 Designは、医療福祉の現場における“見えない業務の流れ”を丁寧に見える化しながら、仕組みによる再構築を支援しました。
◆ クライアントが抱えていた課題
訪問看護という現場の特性上、1人ひとりの看護師が高い専門性をもって判断を下すことが求められます。
しかし、それが時として「属人化」と「ブラックボックス化」を生み、以下のような問題を引き起こしていました。
① 業務が個人依存となり、引き継ぎミスが頻発
- 担当利用者の情報が個人の頭の中にある
- 記録が主観的・簡略的になりがちで、他スタッフがフォローしづらい構造
- 結果、急な欠勤や異動時の引き継ぎで混乱が多発
② レセプト処理が遅れ、資金繰りに悪影響
- レセプト業務を一部のベテランスタッフが一括処理
- 月末月初に膨大な負担が集中し、ミスや確認漏れが発生
- その影響で報酬請求のタイミングが遅れ、資金繰りにズレが発生していました
③ 管理者に全判断が集中し、組織としての判断力が不足
- 「これはどうしたら?」の相談が全て管理者へ集まる構造
- 管理者が多忙すぎて現場を把握できず、結果的に対応が遅れる
- スタッフは“考えない文化”が定着し始めていた
◆ F6 Designのアプローチ
私たちが注目したのは、「誰がやっても再現性がある」業務設計と、「考える力を引き出す仕組み」の構築です。
以下の3つを中心に、プロジェクトを設計・推進しました。
1|行動ログの可視化と、業務平準化のためのオペレーション整理
- 全スタッフにスマホベースで簡易入力できる訪問記録フォーマットを導入
- 記録内容を「時間帯別」「利用者状態別」「対応内容別」で自動分類
- これにより、同じ利用者に対する看護がスタッフごとにブレなく提供できるようになり、「何を」「どこまで」やったのかが一目で分かる状態を実現
2|レセプト処理フローの見直しと、分業体制への転換
- レセプト処理を「確認・データ入力・点検・提出準備」の4工程に分解
- 各ステップを役割分担し、複数名で日割り処理できる仕組みを構築
- 管理者が関わらなくても処理が完了するワークフローへ
- 業務の集中と属人化を防ぐ体制が整いました
3|「判断の基準値表」を管理者と共に策定
- 頻繁に出る「どう判断すべきか?」の相談をヒアリングし、判断基準をルール化
- 「発熱時の訪問可否」「利用者状態の急変」「医師への連絡要否」などをリスト化
- 一覧表にまとめてスタッフ全員に共有し、現場での判断が可能になる基盤を整備
これにより、管理者からは「1日で相談される件数が半分になった」と実感の声がありました。
◆ 得られた成果
導入からわずか3ヶ月で大きな業務改善が進み、半年後には数字と現場の両面で明確な変化がありました。
✅ レセプト処理の遅延:90%以上解消
- 月末一括処理から日次分担処理へ移行したことで、処理スピードが圧倒的に向上
- 提出遅れによる報酬遅延がなくなり、安定した資金繰りが実現
✅ スタッフ1人あたりの訪問件数:+1.2件/日
- 引き継ぎ・記録確認に要する時間が短縮され、移動や対応の効率が大幅アップ
- 結果として無理なく1日あたりの訪問件数が平均+1.2件に増加
✅ 有給取得率:11% → 33%(半年後)
- 業務の属人化が減り、「誰かが代われる」体制に
- 心理的安全性と実務の仕組みが両立したことで、スタッフが積極的に休める文化へ
◆ クライアントの声
「今まで“◯◯さんじゃないと無理”が当たり前だったけど、誰でも安心して働ける職場に変わってきました。」
(主任看護師)
「“休めない”が口癖だったスタッフが、“安心して休めるようになった”と言ってくれた時に、変革を実感しました。」
(事業管理者)
◆ まとめ
この事例は、医療福祉の現場でありがちな“善意による属人化”を、組織全体で支え合う“仕組み”に変えた成功例です。
F6 Designでは、現場を否定せず、その強みを活かしながら変化を根づかせるサポートを行います。